バスケについて書いておきたい

「我、部活なり」時代の時はなーんも疑いがなかった。毎朝6時に起きて朝練に行くことも、公務員のおっさんが悪意のないパスミスにブチギレることも、その日会った試合相手に躊躇なく触れることも、生理の日にバファリンを飲んで部活に行くことも、一つ上の先輩に最初から感情を告げられてる「怒りミーティング」をされることも、それを真似っこして一つ下の後輩にクソデカ態度で「怒りミーティング」をすることも、受験に集中するために部活を辞めたいと言ってきた同級生を「みんな」で「引退までやろうよ?」なんて涙ながらに説得することにもなにも、なにも疑いがなかった。こわいことだ。でもその、自分に疑いがなかったわたしを包んでいた無垢で無知な時間たちとはもう会うことはないんだろうなということはわかる。

 

契約でもしてたみたいに、引退したらバスケとの縁がぷつりと切れた。(それでなんの反射か反応かわからんが映画を撮りはじめた) ある時期から町屋良平にハマって、ふつふつと身体を動かしたくはなっていて、その理由をずっと無意識に探していたのかもしれない。6月くらいだったか、いつも通り美容師とコミュニケーションがとれなくて髪の毛をすかれまくってしまい、いつも以上に失敗した。鏡を見て思った。

バスケ部じゃん。

辛かった。鏡を見るたびに辛かった。自分を鼓舞するために化粧したって、化粧がんばったバスケ部になるだけだった。この髪型を許すためにバスケをやろうってなった。その日の夜、わたしは「社会人 バスケサークル」と検索し、バイトの休みと練習日がかぶるサークルに応募した。自分は自分の思考の展開にたまに驚かされるが、こういうときに自分は自分と一緒にいて楽しいとおもう。

バスケ当日、バッシュを持っていなかったので業務用スーパーで千円以下の靴を買った。バスケとの再会を甘く見ていた。どうせ、一回やったら満足するだろう、だからこの靴も明日にはバイト用の靴にでもしてしまえば良いと。 

体育館。摩擦音が聞こえ、耳が匂いを思い出す。知らん人らがバスケをしている。わたしは隅っこで入念に柔軟をした。皮膚に冷たい床が張り付き、そういうことが嬉しい。

「集まってください」って知らん人が声をかけて体育館の中心で円になる。

「今日も新しい人3人くらいいまーす。ま、自己紹介とかはゲームの時にでもしてください。それじゃ、スリーメンから」

知らん人らが散る。わたしはそれについていく。スリーメン。え?おお…普通に練習するのか。ボール、まだ触らてないんだが。不安。

「いーち、にー、さーん」

スリーメンが始まった。「はじめて?見てればわかるよ」って知らん人が話しかけてくれる。明らかに高校生だなとおもいつつ、「ありがとうございます」と言ってみる。はやい。はやい。はやい。もうわたしの番。

ボールの感触。ゴムの匂い。走ってる人にはボール二つ分まえにパスを出す。ノールックパスとかできてたな。ノールックパス?なにそれ?高度すぎるだろ。必死に目の前の知らん人に話したこともない人にボールを投げる。で、ミスをした。

「丁寧に〜」

って声が投げられてきてマジか。と思う。丁寧が入り込む余地ないので許してほしいとあわあわする。

そのあとはレイアップ。身体に堆積していた記憶の目が覚める。右、左、置いてくる。それができる。身体がレイアップを覚えている。レイアップシュートが決まる。きもちいい。

 

ゲームが始まる。ナンバリングの手触り。手触りの思い出。たのしい。わたしはディフェンスが好きだ。ボールがマークマンから離れてるとき、マークマンから距離をとりカバー体勢をつくったりパスがマークマンに行ったらすぐさま張り付いたりするのが楽しい。それにシュートが2本くらい決まった。きもちいい。結局、このバスケサークルの人らとはバスケ以外のコミュニケーションはとらなかったけど、とてもたのしかった。首にタオルをかけてチャリを走らせる。汗が冷えて極上の風がふれてくる。バスケ、たのしかったな。そうして素直に「上手くなりたい」とおもった。上手くなったら、もっときもちいだろう。

 

我部活なり時代のわたしは東峰旭で精神的にのびのびプレーすることが苦手だった。コーチの罵声が、ライバルの存在が、努力という呪縛が、わたしを硬く小さくしていった。当時のわたしはバスケが「好き」だったのだろうか。システムが作り上げた使命感で毎日ボールを触っていた。遊びとは程遠かった。

いま、はじめて純にバスケと向き合える感じがする。上手くなれば、ボールと戯れることができるかもしれない。ひさしぶり、バスケットボール。はじめまして、バスケットボール。いまにみてて。6年間の刹那に応えてやる。全国に行ってやる。めいいっぱいコートを走ってやる。例のサークルにはもう行ってないが、Twitterでバスケバスケ騒いでいたら友達が誘ってくれたりしてあれから何度もバスケをしている。

 

コートの中は日常から途絶され、通知音も聞こえない。雑念はコート外でいい子に体育座りをしている。いつも、ずっと考えていることってなんだっけ。朝なにで泣いてたんだっけ。忘れることはしていない。ただ、ボールをみて、ボールを追って、マークマンを追って、カットを狙って、シュートを狙って、中外中外、動きを必死に追って、走って、走って、疲れているだけ。バスケ上手くなりたい。